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甘すぎる彼 2

Author: 煉彩
last update Last Updated: 2025-07-11 22:42:36

 次の日―。

「龍ヶ崎部長、おはようございます」

「おはようございます。雨宮さん」

 社内で海斗に会った時はまだあくまで関係は上司と部下だ。

 親しい間柄だということはしばらく気づかれないようにしないと。

 お互いに自席に座り、仕事モードに入ろうとした時だった。

「雨宮先輩、おはようございます」

 吉田さんだ。よく私に普通に話しかけられるよね。

「おはようございます」

 顔も見たくなくて、|PC《パソコン》に向かったまま返事をすると

「あれ、なんだか顔色が悪いですよ。どうしたんですかぁ?」

 わざわざ私の顔を覗き込んでくる彼女がいた。

 喧嘩を売ってるのかな。大人の対応、大人の対応。

「大丈夫です。ありがとうございます」

「何か力になれることがあったら言ってくださいねっ!」

 そんな言葉までかけられた。

 彼女の言動にイライラしてしまい、チラッと部長席を見ると、海斗がいてくれる。それだけでなんだか心が落ち着いた。

「雨宮さん、ちょっと良いですか?」

 業務中に海斗に呼び出された。

「はい」

 返事をし、部長席へ向かう。

「先日の資料なんですが……」

 彼が指を指したパソコン画面を見ると<お昼、一緒にどうかな?>そんな文字が入力されていた。

「えっ」

 てっきり資料についてだと思った。

<はい。大丈夫です>

 私はそう入力をした。

「ありがとうございます」

 彼は無表情のまま、返事をしてくれた。

 プライベートと会社ではこんなに違うんだ。

 年下関係なく、社内ではみんなに敬語だ。

 表情もあまり変えないから、なんだかちょっと不思議。

 お昼休憩になり、背伸びをしていると

「雨宮さん、良いですか?」

 海斗が横に立っていた。

「あ、はい」

 周りの目線が気になったが、別に一緒に食事をするだけだ。

 立ち上がり社食へ向かった。

「オススメメニューは何ですか?」

「うーん。やっぱり日替わりランチですかね。龍ヶ崎部長の口に合うかわかりませんが」

 こういうところでも普通に食事をするのかな。

「いや、普通に一人でチェーン店の牛丼屋とか行きますよ」

「えっ、そうなんですか」

 敬語ながらも普段の彼を知っていく。席に座り、そんなやり取りをしていた時だった。

「あの、お隣良いですか?」

 女性社員二人が話しかけてきた。

 直接話したことはないけれど、顔は見たことはある。そんな程度だ
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